愛すべき本たちの備忘録。たまにかたい本も。

様々な書評です。参考にして頂けると幸いです。

『知識ゼロからの妖怪入門』小松和彦 柴田ゆう

 

知識ゼロからの妖怪入門

知識ゼロからの妖怪入門

 
知識ゼロからの妖怪入門 (幻冬舎単行本)
 

 

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正に妖怪の初心者に向けた入門書です。

様々な妖怪を解説してくれていますが、奇をてらった妖怪は出て来ません。

どれも一度は聞いた事のある妖怪で、安心してページをめくって行けます。

イラスト付きですが、過度におどろおどろしく書いたりしておらず、好感が持てます。

私が小学生の頃に購入した妖怪図鑑は、絵がリアル過ぎてその夜に悪夢を見ました。そして、ただの水溜りを、小豆洗いが小豆を洗った跡だと言い張るという、醜態を晒しました。

やはり自身の程度に合った書籍を選ぶのは大事だと言えるでしょう。

 

最初に出て来る妖怪は、ぬらりひょんです。

百鬼夜行に出て来る妖怪の総大将。

登場が早過ぎるという見方もあるかも知れませんが、ぜひとも知っておいて欲しい妖怪だという、著者の気持ちが垣間見えます。

ふた口女、垢なめ、一反もめんと、メジャーで押さえておきたい妖怪が並びます。

小豆洗いの小豆を洗う音が、しょきしょき、だったり、海坊主の大きさが30メートルだったりと、そうだったっけ?と再発見する様な事も書かれています。

また、後の方でコロポックルなども出てきて、微笑ましいです。

 

ウチの小学生の娘は、妖怪のたぐいをかなり恐れています。

そんな妖怪初心者でも、過度に怖がらずに読みやすい書籍ではないでしょうか。

そして妖怪を好きになってくれれば、言う事無しです。

 

『大家さんと僕』矢部太郎

 

大家さんと僕

大家さんと僕

 

 

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あまり売れていないお笑い芸人さんが、大家さん一人、賃貸人一人の建物で暮らすお話です。

下の部屋と上の部屋で携帯で話したりして、少し距離のある二人暮らしの様な状態です。

 

高橋留美子さん原作の『めぞん一刻』を思い出しましたが、86歳の大家さんと39歳の僕とでは年の差があるようで、2人の距離は中々縮まりません。

いや、そういう漫画では無いのですけど。

それでも2人で食事や買い物に行ったりします。これは作中の言葉を借りると、ランデブーに他なりません。

また、他の芸人さんと話している時に、話題に上がった別の人の話を大家さんの話題と勘違いするシーンでは、大家さんへの恋心を薄っすらと感じます。

 

大家さんが新喜劇でスベっていた主人公に、皆さんは笑いがあったけど、アナタの演技はシリアスで良かったわよ、という場面はリアルで悲しくなりつつも笑えます。

 

作者はお笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんです。

以前、日本テレビ番組「進め!電波少年」の企画でケイコ先生に教わりながら、東大受験をした人です。

まさかこんな漫画を描けるなんて、とてもびっくりしました。

漫画に出て来る細身の僕が、ご本人にとてもそっくりです。

小さくて頭がふわっと大きい大家さんも、きっと似ているのだと推測され、実物を見てみたい気持ちでいっぱいです。

 

全体を通して穏やかな雰囲気が流れています。

そしてこれは、おそらく恋愛モノと言って良いのかも知れません。

ご自身の恋愛に疲れた人には読んで頂きたい漫画です。

きっと癒されるはずです。

 

 

 

『世界から猫が消えたなら』川村元気

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余命宣告を受けた主人公の元に悪魔が現れる。

悪魔は、世界から何か一つが消えるのと引き換えに、主人公の命を1日伸ばすという取引きをする。

タイトルの猫は消える物の一つです。

 

消える物は自分で選べるわけではありません。

それがこの話の残酷な所のようです。

決めるのは悪魔なので、当然意地悪な物を選びます。

なんせ悪魔ですから。

当たり前と言えば当たり前なんですけどね。

 

作者は『電車男』や『君の名は。』をプロデュースした人です。

どこかで読んだ事のあるような感じの文章だと思ったら、先日読んだ『億男』の作者でもあったようです。

 

『億男』は、お金をテーマに考える話でした。

世界から猫が消えたなら』は、命や大切なものについて考えるという話です。

 

仲直りをしたい人がいたり、何かを大事にしなければと思いながら出来ていない人には、是非読んで欲しい作品です。

平易に書いてくれているため、とても読みやすいです。

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』神田桂一 菊池良

 

もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら

もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら

 

 

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カップ焼きそば。

包装を解き、かやくとソースを取り出す。

かやくの袋を破って中味を入れる。

お湯を沸かして入れる。

五分間たったら、慎重に湯切りをする。

ソースを絡めて箸でかき混ぜる。

食べる。

 

たったこれだけの事を、もしも様々な作家が書いたら、という視点で、様々な作家に成り切って、というか成り切った風にひたすら書いてあります。

帯にも書いてあるが、兎に角下らないです。

しかし、笑えます。

帯には馬鹿だから泣けてくる、と書いてありますが。

 

芥川龍之介が書いたら。

羅生門風。つい最近原作を読んだばかりなので、息を飲むような雰囲気が思い出されつつ、それがカップ焼きそばを作るという行為で台無しにされていく。

 

星野源が書いたら。

カップ焼きそばでは無く、むしろカップ茹でそばだろうという言い回し。

実際にありそうで、良いです。

 

さらにはイラストがあります。

田中圭一さんが、もしも青木雄二川端康成を描いたら、などを描いています。

ナニワ金融道カバチタレがまざまざと目に浮かびます。

これらのページも秀逸です。

 

知っている作家が多いほど楽しみやすい作品なので、雑多に本を読んでいる人にオススメです。

さらには、漫画も雑多に読んでいると、なお楽しめるはずです。

一つ残念な事は、この本を読んでも得る物は少ないかも知れません。

息抜きで笑うのに丁度良いです。

まあ、真面目に読む人はいないと思いますが。

 

 

 

『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』 西原理恵子

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二女の父親です。

タイトルを見て即買いを決めました。

やはり娘には幸せに生きて行って欲しいので。

 

著者が親元を離れて学校に通い、独立して収入を得るまでが描かれています。

また、娘や息子や実母との関わりも笑いを交えつつ紹介されています。

そして、元夫とのエピソード。これは、かなりの苦労を要したようです。

感情的にならずに淡々と書いてあるのが、逆に凄惨さと苦労と努力を感じさせました。

過酷な環境で必死で生きてきた著者の言葉には、確かな説得力があります。

 

タイトルにもある、女の子が生きていくときに覚えておくと良いことが色々出て来ます。

「指輪を買ってもらうより、自分で買う方が良い」

「年収一千万の旦那を探すより、夫婦それぞれ年収五百万が良い」

自立していれば、旦那に頼りきるより安全で充実した人生が歩んで行けるという事です。

「リストラにならない会社は無く、病気にならない旦那は居ない」

この言葉は多くの人が頷くはずです。

 

著者は『毎日かあさん』などを書いている漫画家さんです。

本もたくさん書いています。絵にも文章にも、勢いと力があります。

 

女の子の親御さんには、是非おススメしたいです。

また、それぞれの年齢の女の子も読んでおくと、幸せになりやすいかも知れません。

 

 

 

大人の自由研究

小学生の娘は、後一カ月もすれば夏休みに突入する。

毎年ある程度の宿題が出て、なんだかんだ言いながら取り組んでいる。今のところしっかり終わらせて、提出しているようだ。

さて、いくつかある宿題の中で、自由研究という物がある。

これは何をやっても自由、それどころかやってもやらなくてても良い、というかなり自由度の高い宿題だそうだ。

そういえば、私が小学生の頃にも、そんな物があった。

私は自由なので、当然のようにやらなかった記憶がある。残念ながら、自由を履き違えた小学生だったようだ。

やれば良かったのにと思ったが、それは大人だからだろう、という所で疑問が浮かんだ。

もし、大人の私たちが自由研究をしたら、一体どんな物が出来るのだろうか、と。

 

昨年、娘と二人で木で仏像を彫った。

あれをキッチリ作りこめば、クラスのみんなの度肝を抜くような自由研究の出来あがりだ。

なかなか良い気がしてきたが、大人ならではの自由研究というには、少し足りない気がする。

子どもらしくなさは及第点だけど。

 

では、何が大人の自由研究にふさわしいだろうか?

スーパー別、特売日別にしたビールの値段グラフ。

バー別ジントニックの値段と特色。

タクシーの運転手さんに聞いた面白い話。

年代別、大人買いしたもの。

ハズレ馬券やタバコの箱で、折り紙作品。

ビールの空き缶でロボット作り。

 

大人の自由を履き違えている気が…。

 

『もういちど生まれる』朝井リョウ

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大学生は、大人と子どもとの、中間のような存在です。

一人暮らしを始めたり、アルバイトを始めてまとまったお金を手にする機会が出来たりします。

そして、遠出や外泊の機会も増えて、かなり世界が広がって来ます。

これはそんな年代の男女たちを描いています。

 

短編が数話で一冊になっている、という少し変わった構成です。

前の話の登場人物が、次の話では脇役で出演してきます。

別の視点からその人を見られるので、登場に気付いてからは、また違う楽しみも加わります。

完璧に見える人でも、脆さが次の話で垣間見えたりします。

全体を通して、その年代にありそうな、瑞々しさや生命力を感じます。

 

著者は『桐島部活やめるってよ』を書いたき人です。

 

学生の頃に読んでいたら、かなり感情移入が出来て面白かった気がします。

四十を過ぎた私には、少し眩し過ぎるきらいがありますが、懐かしさや甘酸っぱい感覚もあり、とても興味深く読めました。

おじさんにも、オススメです。